座の連句 ーーー仲間と一座してする連句を紹介します。(ころも連句会の作品から)

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◆ころも連句会1978年発足。蕉風伊勢派宗匠猫簑庵東明雅先生(信州大学名誉教授)の御指導を受け、愛知県豊田市を拠点に連句を巻いてきました。2003年明雅先生はご逝去されましたが、お教えをもとに規制の厳しい伝統連句にきたえられつつ、ビビッドに、にとりくむ作品を巻きたいとねがっています。代表 矢崎藍。会長 稲垣渥子。 例会毎月第四火曜日 11時ー17時 於 豊田市青少年センター  


 T2002年 百韻「青疾風」 U2003年明雅先生追悼歌仙  V2008年 高山百韻  W2012年百韻「旅はるか」 X2012年小布施歌仙


X 2012年  歌仙(まなともーころも連句交流会)

 

歌仙「逢瀬かな」の巻  捌 山寺辰巳& 矢崎藍 
   小布施とは逢瀬にちなむと伝えたるもなつかしく
 てのひらに青い林檎の逢瀬かな   
   君待ちわびし風薫る町       
  鴨の子の列をなしたる信号に    
   キャンバス立てしままのキッチン 
  やりかけの仕事を残し真夜の月 
  がちゃがちゃ鳴いて輪唱となる
  白壁のゲストハウスの秋深み  
    女あるじは西へ東へ   
  命がけ守りたき人見つけたり   
    別姓なれど鍵はひとつで  
  押入れにお茶とお花のお免状  
    すれちがいしは座敷わらしか 
  数え日の復興会議のぞく月
   熱々ですと届く鍋焼  
  ヘルパーと笑いころげる白寿にて
   インドネシア語かなり堪能  
  氷河期の象の噂も花見酒      
   まなとも句会春の合宿    
耕しは隅から隅まで念入りに  
     IT工場部品流れる   
  バーチャルの迷路にはまる次男坊
   はだかる奴は敵か味方か   
  しょうもない政局がらみの消費税 
    昼寝の夢がまた後をひく      
  鴻山の妖怪踊る団扇なり
    羽黒蜻蛉が水面かすめる
  お百度の小町娘はひたむきに
   輪廻の果ての恋の月明
  高速道おりればそこが栗の径
   新蕎麦ならば盛りは三枚
ナウ フルートのミニコンサート猫も聴き
   下校の子等はホップステップ
  航海士動かぬ土を踏む安堵
   五輪の旗に風のやわらか      
  爛漫の花老若を包みこみ     
   香魚の上りし故郷の川
  矢崎藍
 山寺辰巳
栗原たけと
 間瀬芙美
 深津明子
 伊藤良重
 稲垣渥子
 栗原良子
  板倉合
    渥
    重
    明
    と
    良
    渥
    藍
    合
    良
    明
    重
    明
    藍
    芙
    辰
    と
    芙
    渥
    藍
    合
    と
    芙
    渥
    重
    明
    辰
    良

平成二十四(2012)年六月二十八日首尾
   於 小布施公民館  まなとも・ころも交流連句会
(藍)たつみさんと十五年前からの永いお約束だった歌仙行です。情感のあるまなとも連句会の句に、元気溌剌のころもメンバー。最高に楽しい午後が私たちの大切な一巻になりました。青いりんごが実る美しい街小布施で連句ができる幸せ。特急の座席でも連句を巻いて、やはり連句の醍醐味は旅ですねえ。まなともの皆さんありがとうございました。
 (良重)小布施ツアーのきっかけは昨年ころもに栗原ご夫妻がはるばる大根を届けてくださったこと。歌仙も大盛況でしたが、昼食も夕食も良子さん手作りのお料理で、おなかいっぱい幸せいっぱいの3日間を過ごしました。お宿のアラ小布施もコテージ風の素敵な建物で、小林一茶の句碑をたどり、北斎記念館・高井鴻山館を案内していただきサクランボ狩りを(無料で)楽しみ、長野駅まで送っていただくただ、ただ感謝の旅でした。

ア・ラ小布施
(渥子)オマケ二十
 「トンネル抜ける特急」の巻  捌 稲垣渥子 
 トンネルを抜ける特急梅雨晴間
   緑のけぶる谷あいの村          
 保母さんとじゃんけん遊び輪になって   
 ボトルシップの海賊の旗     
 月光のさらさらしみる君の髪 
    ほおずき鳴らす愛しき口元          客人を待ちて栗飯炊き上がり 
   狭いながらも蔵をリフォーム   
  町挙げて揚水選ぶ送電線        
   雀の群れが一斉にたつ        
ナオ 酔っ払いなかなか読めぬ一茶句碑 
    二枚重ねの蕎麦をぺろりと      
 カーナビのせいで遅刻の冬の月  
  消防団に消せぬ恋の火         
 入籍をするかメリットデメリット      
   ある時文字を持った人類        
ケイ)というコンピューターの打つ王手
   ごくり飲み干す水のうまさよ 
 念願の小布施を巡る花の旅        
   北の彼方に霞む連山          
平成二十四年六月二十七日起首二十八日満尾 於JR中央線[しなの]車中よりアラ小布施ゲストハウスにて
芙美

渥子
良重
 藍
 芙
 重 
 芙
 藍
 渥
 々
 藍
明子
 芙
 重

 重
 藍
 合
 渥
(渥子)中津川を過ぎる頃巻きはじめ。発句脇のとおりの車窓です。ウ6までで長野着。長野電鉄小布施駅プラットフォームでも、駅舎前でも。ご案内の栗原夫妻とお蕎麦の夕食や(たけとさん二枚重ね)明子さんオーダーストップぎりぎりに到着など旅のできごとが付け句にはいってゆく楽しさ。やはり後から車で間に合った合さんもいれてアラ小布施で夜おそく巻き上げ。連句三昧の三日間でした。それにしてもこの巻で小布施に着く前に作った前半の付け句に、栗飯や蔵のリフォームなどが予見のように現れたのはちょっと驚きです。

W 2012年 百韻

  百韻「旅はるか」の巻             藍 捌
初折
発句 旅はるか白桃熟す里に入る  矢崎 藍 初秋
   雲のすきまに浮かぶ昼月  間瀬芙美 三秋
第三 キッチンの鉄瓶鳴れば爽やかに  板倉 合 三秋
 4  くるくる動く掃除ロボット  稲垣渥子
  5 少年は貝の釦をはめ直し  長坂節子
    きらめく海の見える図書館   石川桃里
   粉砂糖まぶして脳も夏休み  伊藤良重 三夏
    幹にぞろりと蝉の脱殻 近藤とみ子 晩夏
ウ  1 朗々と心経を読むバイト僧  石川 葵
    喜怒哀楽を包むそよ風  草笛 奏
   鏡見て背筋を伸ばしまだ若い  冨田八穂
  4  時を惜しんでパックする妻  小野芳梅
   新幹線窓ごしの恋届かずに 武藤美恵子
   6  妄想暴走ふぶく胸中 徳永あき子
   目次なき手書きの句集冬の月  谷本守枝 三冬
  8  炉端に交わす故郷の酒      節  三冬
   産土の神に大根お供えし     合 三冬
  10  志功疎開と記す碑 繁原敏女
  11 焼け跡に茫と佇みおりしこと      藍
  12  塩梅のよき母のおむすび     葵
  13 逆上がり見上げる空に花ふわり     と 晩春
 14  栗毛の仔馬小首かしげる     あ 三春
二の折
オ 1  虻の飛ぶコクリコ坂を駆け下りて   渥   三春 
 2  アールグレイのブレンドのお茶   重
  英国の皇子結婚されました   桃
   パソコン秘かに閉じる秘書官     節
  目には目を世に報復のある限り     枝 
   積乱雲のきょうもむくむく     と 三夏
  ロッキングチェアの揺れる夏館   芙 三夏
   逢瀬ひととき仙人掌の花   穂 晩夏
  「何人め」問えばくちづけ与えられ   あ
 10  待てお預けに従順な犬   と
 11 未来都市砂場に作る園児たち     葵
 12  線量計の針がぴくりと    渥
 13 月光に行くも戻るも道半ば   奏 三秋
 14  右肩下げて案山子お出まし   枝 三秋
ウ1  蛇穴に入るころ首相誰ならん   藍 仲秋
  一升びんから濁酒とくとく   芙 晩秋
  天性の音痴でござる太郎冠者   節
   曼荼羅かかる古寺の本堂   恵
  豆を選る仕草がいつか姑に似て   重
   ひとり遊びの好きな凩     葵   初冬
  生きていることの切なき日向ぼこ   渥 三冬
   送電線の垂れし鉄塔     芳
  目の鱗落としてくれる大夕立   女 三夏
 10  還俗決意してのマニキュア 由川慶子
 11 スペインの蠱惑は君の抱き心地     節
 12  夢かうつつか青き蝶々   枝 三春 
 13 舷窓にジャズピアノ漏る花明かり   節 晩春
 14  病むひと癒す月朧なる   慶 三春
三の折
オ1 一袋の小女子千の目のありて       枝   三春
   監視カメラは至るところに     恵
  地下街にブランドショップ競いおり   と
   引っ越し稼業継ぐ若社長   重
  A版の茶封筒もつ酔っぱらい   合 
   安全神話ついに崩壊   恵 
  原発はこの世の中にいりません   々
   葱雑炊を囲む食卓    渥 三冬
  ぬぬぬぬと写楽も出たり酉の市   女 初冬
10  見覚えのある背なか見つけて   奏
11 八十路にて女難というもいとをかし   女
12  ぽろぽろ落とすポテトチップス   と
13 草蛍ねんねんころりと月渡る   節 仲夏
14  鵜飼いの舟の舳先揃えて   恵 三夏
ウ1 涼しさに各務支考の発句集   慶 三夏
   近況添えて小包を出す   芙
  LP盤スローバラード流すらん   葵
   ミューズの声の天にあふれる   奏
  学園の乙女の裸像清き陰(ほと)   枝 
   時代求めし学徒動員    奏 
 7 ヒトが来て大地が燃えて森が消え   々 
   どこから話そう積もる話を   あ
  青蜜柑ころがる先の月明かり     芙 三秋
 10  ドア叩いてるハロウインの客     奏 晩秋 
 11 そぞろ寒ちいさな靴屋に小人住み   重 晩秋
 12  自転車に乗る蟷螂の斧   芳 三秋
 13 花婿は眼鏡の似合う細マッチョ   桃
 14  二脚歩行のティラノザウルス   渥
名残の折 
オ1 断崖のもと奔流の大黄河        深津明子   
   マッサージ師の訛る挨拶     重
  あこがれのシティーマラソン完走し     芳
    くしゃみ可愛い年下のひと   あ 三冬
 5 振袖に惚れ直してる初詣   重 新年
   猫の写真ももって宇宙へ     葵
  311津波の町にある墓標   芳
   側頭葉のしんと鎮まる   葵 
 9 フェルメールコンパスつかう地理学者     渥
 10  何でも包む木綿風呂敷   女
  山里は今も雨戸の十三夜   枝 晩秋
 12   焼き柿とやらそろそろと食べ   合 晩秋
 13  検索し鹿の角伐り見に行かん   と  晩秋
 14  定年すぎて電話鳴らない     藍
ウ1 ていねいにごま塩髭を整えて        芙      
   クローンナンバー10の憂鬱   重 
  転生を繰り返したらまた逢える   奏 
 4  鰓呼吸する水槽の中   渥
 5 開店の準備しているレストラン     節
 6  春の匂いのするミルフィーユ     恵  三春
 7 花よ降れ言霊遊びはてもなく   藍 晩春
挙句  風船を手に駆けてゆく子ら   桃 三春

  平成二十三(2012)年八月二十四日起首同二十五日満尾 
                  於  豊田市藤岡 つどいの丘
        

ころももが明雅先生の命名で発足して三十五年
目。たくさんの連句を巻きはるかな旅をしてきて
きました。この百韻の嵐のように出続ける短冊
に改めて今年の桃も熟してきたなあと思います
 これまでの百韻は、数人ずつ交代してお風
呂にはいったりカラオケしたりでしたが、今年は
会議室で大きなテーブルを十八人全員で囲んで
(写真上は右半分、下が左半分)賑やかな
のなんの。初折からおもしろい句がどっと盛り
上がってくるので「まだまだ先があるよ。原発
はもっとずっと後ね」と、ひたすら抑える闘い
だったような。予定どおり満尾10時間。
ご苦労様。よく笑いましたね。ころもだもの^^)


U 2003年明雅先生追悼歌仙 
 10月20日東明雅先生が逝去されました。ご冥福を祈り、先生のお教えをしっかりと胸に抱きながら、これからを歩んでいきたいと思います。例会作品を各捌きに添削してくださった明るいブルーのインクの御筆跡のお手紙。お優しい笑顔とともに私たちの宝物です。

明雅先生追悼 
 歌仙「時雨るるや」の巻              捌 藍             

発句 時雨るるや教えのペンのライトブルー 初冬
 脇  はらりと散りし庭の山茶花 ときよ 初冬
第三 交差点鼓笛の列の過ぎゆきて 渥子
 四  ママのポッケにいつも飴玉 慶子
やっとかめ待ちくたびれし友の月 芙美 三秋
 六  水車ことこと廻るやや寒 治子 晩秋
ウ一 新藁を敷きし木箱に子兎を 芳梅 晩秋
 二  ただ優しさに飢えていただけ  慶
 三 息とめて唇うける風のなか 聖子
 四  恋は秘かに恋は一途に   と
 五 ミステリードラマ見るのが日課なり  好
  六  タランチュラの眼ひかる新月  敏女 三夏
砂遙か独裁者棲む砂の城  節子
 任せられぬと論客は酔い 美代子
呼んでみるいまは不在の弥勒佛  然
 むらさきいろに染まる山の端 元子
十一 三代の家業を譲り花の旅  梅 晩春
十二  吾平餅売る旗のうららか  藍 三春
ナオ一 鯛網の掛け声太く響かせて  治 三春
 背なの赤子のよく眠ること  節
ささやかな幸は半額シールから  聖
 政治家どもの付和と雷同  節
とき至りぽんと宇宙へ跳ねた鞠  然
 外反母趾の疼く街角  渥
お目もじのかなわぬ君と知りながら 良重
 光源氏の冬ざれの嘘  と 三冬
あの猫の二重生活伸びをして  好
 健康茶淹れ持ち歩くらん  美
十一 明月のおもかげやさし父の墓碑  慶 三秋
十二  俳諧大道紅葉絢爛  藍 晩秋
ナウ一 お若いのなかなかやるのう文化祭  と 三秋
 二  異常気象のつづくこのごろ  渥
 三 エーゲ海黒衣の女白い壁  元
 四  BGMに春の夢見る  芙 三春
 花 花の宴お鬚の膝に柳樽    敏 晩春
挙句  ついてはなれて遊ぶ蝶々   守枝 三春

平成十五年十一月十八日首尾  於 豊田市「野島」
連衆: 柿本ときよ 稲垣渥子 由川慶子 間瀬芙美 加藤治子 小野芳梅 
    八木聖子 小園好 繁原敏女 長坂節子 黒木美代子 佐久間然
    山口元子 伊藤良重 谷本守枝
*挙げ句で、先生のお膝元でついてはなれて遊ぶ蝶々は、私たちのねがい。付いて離れてひらひらと自由に連句を遊ぶ境地になりたいものです。


T 2002年 三ヶ根山百韻

   
☆2002年2月9日、10日と三河湾を望む三ヶ根グリーンホテルで藍捌き、連衆12名でころも連句会としては初めての百韻を巻きました。9日午後4時半にスタートし、途中夕食をはさんで4時間35分、翌日朝9時に始めて1時まで4時間、計8時間35分かかりました。☆いい捌きといい連衆がそろうということはなんと素敵なことでしょう。作品の善し悪し?それは読んでくださった方のご判断にお任せです。巻き上げて、どっと疲れが出ましたが、でも、楽しい初体験でした。(由川慶子)


百韻 「青疾風」の巻     捌  藍 

1 初折 表 発句 寒明けの疾風や青し三ケ根山  藍 初春

☆一泊二日で百韻!無理だろうなあと思いました。いつもの例会のペースだったら二日かけてもせいぜい30句くらい。でもまあ、いいや。ごちそうと、なんてったって温泉があるもんね!気楽な気持ちで参加した私。考えが甘かった!ホテルに着くなり、「さあ、始めるよー!」と藍さん。え〜?もう始めるの?温泉はいってからじゃだめ?あ〜あ……  三河湾を一望するすてきな部屋に机を並べて、「青疾風の巻」のはじまりはじまり。いやー、皆さん、句を出すのが早いこと。何かが乗り移ったみたいでした。(笑)巻きあがっちゃったんですよね、、8時間半で、百韻!うそみたい。 ごちそうもしっかり食べたし、温泉も二度入った。できあがった百韻はすばらしい出来。よかったよかった。お世話くださった佐久間さん、それから、山道を散策しながら三ヶ根の植物について教えてくださった渥美さん、楽しい時間をありがとうございました。いただいてきたハンノキの小枝、さきっぽの芽がふくらんできましたよ。(八木聖子)




☆一月に皆で食事している時、「百韻を巻こう」という話がもちあがりました、その話にのった全員、何処で何時、手帳を取り出しこの日、あの日、藍さんのいる日、もう盛り上がること、待ってましたとはこういう事なのでしょう。
 当日慶子さんの第一声は「おはよう」じゃあなく、「誰もキャンセル無しよ」と言う喜びの笑顔でした。お天気もよし、さあいくぞーは、いいけど、着いたとたんテーブルセッティング、短冊、――えっもう、「百韻をなんと心得る、昼夜問わずじゃ」と言ったかどうかは別としても、すぐに連衆の句は出るわ出るわ、藍さんの名捌きとはこの事か、現実を見せられた気持ちでした、お風呂、食事、おしゃべりに花が咲いても、百韻巻き上げる、という気持ちは皆同じ、思ったより早く巻き上げた藍さん、連衆の皆さんにただただ敬意のみです。、帰りに駅までのバスの中、隣に座った敏女姉が、「こんな楽しい百韻はもっとやりましょう」と心強い言葉に嬉しくなりました。最後まで見送ってくださった佐久間さん、有難うございました。佐久間さんの合掌の姿が脳裏に。私も合掌で。(間瀬芙美)

☆『旅行にいける、嬉しいな、HA,HA,HA,・・・』という気持ちで 百韻を巻く会に参加したのですが、十時間かかると聞いてびっくり。でも藍さんの名捌きのおかげで八時間半でまいてしまったんですよ。
☆翌日は渥美さんのご案内で、鏡のように凪いだ三河湾 を眺め、あれが神島、あれが答志島と教えていただき、その後山路をたどり春浅き三ヶ根を楽しみました。こんな楽しい時間が持てたのも佐久間さん、渥美さんのお蔭と感謝しています。(長坂節子)

☆ ころも連句会の仲間で百韻が巻けてとてもうれしいです。歌仙 でも源心でも、百韻でも、巻くこころはおなじ。付けて転じて川のようにときにさらさら流れ、ときにぐんぐん流れ、月を七つ見て、花を四つ見て、序破急にのり充実した旅でした。私の感想はね、いつもは採られずに葬られる句も百韻なら、かなり生きるーーつまりみんなけっこう言いたいこといっちゃえたんじゃないかなーーということです。実は「巻く前にドリンク剤1本飲んで捌く」と某先輩にいわれてたのですけど不要でした。どんどん句が出るなら捌きは楽。そして私の気に入りの句を下さるのがころも連句会の仲間ですもの。つぎに歌仙を巻くときは物足りなく短いと感じるかもしれませんね



☆ 翌日は渥美守久先生(全国愛鳥教育研究会)のご案内で三ヶ根山の早春の散策。「冬の木はいいなあ。冬は枝をとおして海が見えるでしょう」とおっしゃった。ああ、木の芽も海を見てますね。渥美先生の別荘のお庭の中央には薄墨桜が春を待っていました。紅梅が艶やかに蝋梅は金色に輝いて。宝物を見せていただきました。鳥の糞が運んでいる草木の種。ちいさい宝石の粒のようです。だって、命なのですものね。ありがとうございました。
☆佐久間さんほんとうにお世話様でした。ことに渥美先生にお逢いできたこと。自然に触れる。すてきな人に逢う。まさに連句の最高の価値ですから。
☆以下百韻をご報告します。この号をお送りしたら、壹さんが「いやあ、ようやりましたなあ。百韻とは。これはまたなかなかの作品と拝見しました」とあの太いゆっくりした声でほめてくださるはずでした。壹さん、私はまだ電話を待っています。
(藍)
2    脇  海のきららに梅匂う里 直子 初春
3    第三 入学式列をはみ出る子供いて 渥子 仲春
4    四  タッタカタッタカ楽隊がゆく 元子
5    五 きんつばの甘くないのが売れ筋に 慶子
6    六  男点前のお薄いただく 節子
7 月 七 月もよしボス猫さまと目が合った 三秋
8    八  どんぐりころりゆれる吊り橋  節 晩秋
9 裏  一 塩嘗めて新走り呑む漁師村 守枝 晩秋
10    二  減反なれど稲田豊かに  慶 晩秋
11    三 兄嫁の忍び笑いのふっと洩れ 聖子
12    四  行灯消して罪の暗闇  元
13    五 法林山法主は実は小説家  枝
14    六  積み上げてある阿弥陀経本 良重
15    七 引越も泥縄式の外務省 芙美
16    八  裏情報をそっと耳うち  聖
17 月  九 月仰ぎ薮蚊の痒みたえがたく 和宏 三夏
18    十  網戸の破れガムテープ貼る  重 三夏
19   十一 ほろ苦い決断をする五十代  節
20   十二  財産分与よきにはからえ  芙
21 花 十三 返り花貝の形の音楽堂 敏女 初冬
22   十四  冬の虹立つ川沿いの町 治子 三冬
23 二の折 表  一 新開地少年ギアをトップにす  節
24    二  メダルの行方話題沸騰  重
25    三 大いなる未来望まず鳶の空  女
26    四  オーイと呼べば妻が振り向く  芙
27    五 なれそめは本屋の棚が高過ぎて  重
28    六  うす紫の傘のしたたり  聖
29    七 シェルブールモザイク模様の石畳  元
30    八  入道雲のビルに湧き立つ  渥 三夏
31    九 秀才の面で飼ってる熱帯魚  芙 三夏
32    十  ロンド弾いてる午後の倦怠  直
33   十一 不幸せミスティローズ塗り重ね  聖
34   十二  ちょっと噛った林檎さしだす  直 晩秋
35  十三 逃亡のためのトラック薄原  慶 三秋
36 月 十四  ブルカを脱いだアフガンの月  渥 三秋
37 裏  一 自転する地球夜景は輝いて  藍
38    二  言いかけていた言葉のみこむ
39    三 孫来るも帰るもうれし疲れ果て  枝
40    四  テールシチューが鍋にとろとろ  聖
41    五 社を挙げて偽装シールを貼りました  治
42    六  泥水いつもかぶるのは秘書  聖
43    七 陰陽師出てきておくれ伏魔殿  直
44    八  チューブのわさびやけに効くこと  枝
45 月 九 この恋の他はいらない冬の月  聖 初冬
46   十  初めてひいた口紅のいろ  重
47   十一 黒猫がさらっていった嘘ひとつ  節
48   十二  呆けた鶏やたら鳴き出す  女
49 花十三 花三分酔が七分の花の下  枝 晩春
50   十四  にじり口には淡い春の日  元 三春
51 三の折 表  一 碧い眼の陶匠のどか小京都  節 三春
52    二  広告とりにミニコミ紙来る  慶
53    三 値引きなどできない俺は創業者  同
54    四  秒読みとなる日本沈没  渥
55    五 たち悪き夢にあたりて獏寝込み  宏
56    六  不実なひとに魅せられてゆく  聖
57    七 蛍の夜手首激しく掴まれし  節 仲夏
58    八  六条院の姫君の汗  藍 三夏
59    九 弾く前に鳴りはじめてる筝の琴  慶
60    十  時のあわいに砂のさらさら  聖
61   十一 不可能の文字なき辞書を探すらん  直
62   十二  防災の日の御飯缶詰  渥 初秋
63 月 十三 銭湯で垢を落として帰る月  宏 三秋
64   十四  路地の隅っこ残菊の鉢  直 晩秋
65 裏  一 清貧を貫き通し友の逝く  渥
66    二  追い出しきれぬ身のうちの鬼  節
67    三 北風に押されて道を急ぎたり  枝 三冬
68    四  空にオリオン凍てし平原  元 晩冬
69    五 女ありブレスレットは枷に似て  聖
70    六  黒き肌へに血潮とくとく  元
71    七 古時計ボーンとひとつ響きける  同
72    八  戒厳令の店のシャッター  聖
73    九 印度洋巨大空母に波高し  節
74   十  近く遠くに鴎群れ飛ぶ  元
75 月 十一 朧月父似の嬰の長睫毛  節 三春
76   十二  雛人形を飾るお座敷  芙 仲春
77 花 十三 退院の径は明るき花盛り  女 晩春
78   十四  魔法の馬車のことことと過ぎ
79 名残
の折
表  一 カレッジの正門前の砂絵描  慶 初春
80    二  予報外れて雨が降り出す  女
81    三 黙のまま朝の煙草をもみ消しぬ  渥
82    四  新監督が向かう球場  慶
83    五 同級会なれば呼び捨て許されよ  枝
84    六  ピーマン嫌いいまだマザコン  節 晩秋
85 月  七 十三夜恋のおかげで痩せまして  渥 晩秋
86    八  霧の流れに溶けそうなキス  直 三秋
87    九 顔文字がにっこり笑っているメール  藍
88    十  通勤電車長すぎる脚  同
89   十一 沖縄は許していないことがある
90   十二  ハイビスカスは燃える火の色
91  十三 掌の空蝉すこし動くごと  枝 晩夏
92   十四  孤独を知りし雑踏の中  藍
93 裏  一 ああ昭和手塚治虫も遠くなり  元
94    二  無駄な電灯消し歩く癖  渥
95    三 雪催い架線工事の出稼ぎに  慶 晩冬
96    四  ちょっと気取ってブルマン珈琲  芙
97    五 逃げ出した大イグアナの大あくび  渥
98    六  野党与党と無党派層と  元
99 花  七 転生の果てに見ている花万朶  聖 晩春
100   挙句  浅黄まだらの乱舞北上  宏 三春

平成十四年二月九日起首 十日 満尾
於  グリーンホテル三ヶ根
連衆 福井直子 稲垣渥子 山口元子 由川慶子 長坂節子
    谷本守枝 八木聖子 伊藤良重 間瀬芙美 佐久間和宏
    繁原敏女 加藤治子