桜花学園大学 第二回日中連句研究会2002.8.6ー8,7
日中連句研究会 主催 日中連句研究会 桜花学園大学比較文化学科・桜花学園大学生涯学習研究センター・ころも連句会 後援 豊田市・豊田市文化振興財団・中日新聞社 |
御油松林を出ると「暑い!」 |
■8月6日(火) 御油ー赤坂 東海道を歩く 日中連句実作会 於 赤坂大橋屋 半歌仙「暁の雨」の巻 捌 矢崎藍 半歌仙「松の梢」の巻 捌 福田眞久 半歌仙「暁の蝉」の巻 捌 福井直子 半歌仙「おぼろおぼろに」の巻捌 由川慶子 半歌仙「夾竹桃」の巻 捌 長坂節子 ■8月7日(水) 日中連句会議 於桜花学園大学 「二カ国語連句としての日中連句」 |
「ここが赤坂大橋屋でござるな」わ!お江戸へタイムスリップ! |
昨2001年年5月、北京大学日中詩歌比較文学研究会で初めての日中詩人・研究者による連句実作会と連句研究会が行われました。日中国交回復後30年、日本の俳句とともに、連句も中国に紹介される段階になりました。 02年には日本で第2回の研究会を桜花学園大学で開くこととなり、俳句・連詩・連句の翻訳の第一人者として活躍中の鄭民欽北方工業大学教授・法政大学滞日中の北京大学の許耀明副教授をご招待、近藤正 成蹊大学教授(日中連句研究会会長)を中心に福田眞久(国士舘大学)教授、青木五郎京都教育大学名誉教授においでいただき、当地近隣の連句の実作者、学生、留学生、1日め実作40人、2日め研究会22名が参加し盛況に終えました。皆様ありがとうございました。各座の作品と感想をお届けします。(矢崎藍 桜花学園大学教授)
■日中連句実作会 於赤坂宿 8月6日
第一日目は日中実作会です。「夏の月御油より出て赤坂や」の芭蕉の句にちなみ、旧東海道でいちばん短い距離の宿場、御油宿―赤坂宿間16町を、みんなで歩きました。約40分。御油の松並木を歩き、資料館でお江戸の旅資料も見て関川神社で芭蕉の句碑を拝見しーーー句の意味がわかった? うう、暑い!でも「東海道のひとすぢも知らぬ人風雅おぼつかなし」(芭蕉)ですぞ。う、暑い! 格子に提灯の旅宿、赤坂大橋屋に到着し、大広間でお膳を並べ、さて発句の中国語訳発表。
夏の月御油より出て赤坂や 芭蕉
鄭先生の翻訳は5−5字です。(短句は7字) 夏月出御油 匆々去赤坂 (鄭民欽訳)
許先生の翻訳は7―7字です(短句5−5字) 夏月余暉踏旅程 出御油赤坂奔行(許耀明訳)
それぞれに両先生が脇句を中国語で付け、各座の捌きが脇を日本語訳して半歌仙を巻きます。(なお、以下の連句全巻の翻訳は翌日の日中連句研究会に検討され、推敲された作品です)
1 御油の座
●
小竹由起(比較文化4年)鄭先生は5・7・5句を5・5字に77句を7字に訳されます。発句の訳のポイントは「匆々」で、夏の夜の明けやすさと、御油―赤坂間の短さを表現し、語調も整えています。「桑掌」はサウナです。私は中国語研修に行って少し中国語をかじっていましたが、翻訳の難しさを感じるとともに、自分が中国の思想や中国語に精通していればと歯がゆく思いました。しかし、自分たちの作った句が、目の前で中国語という漢字のかたまりにかわっていく様にはワクワクしました。6句目の私の片仮名の多い「ハモるアカペラ」句は口語で鄭先生も訳すのが大変そうでした。結局「合唱無伴奏」。7句めの藍をいれた鄭先生の挨拶句から、卓上にあったおっぱい饅頭を句にしてしまう近藤先生の発想!藍先生は「私のいない間にひどい!」といっていましたが、そんなやりとりも連句のおもしろさです、。翌日も話し合われた日中の花の句の問題その他、体験すること全てが勉強と感動の二日間でした。お世話になりました先生方、ころも連句会の皆様、竹内茂翁様をはじめ参加者の皆様、本当にありがとうございました。厚くお礼申し上げます。
● 山田奈々(比較文化4年) 花の座は日本では桜ですが鄭先生は桃の花の句をだされました。中国では牡丹、梅、桃の花などが花のイメージだそうです。興味の尽きない二日間でした。
●稲垣渥子(ころも連句会) 日中連句も国際連句も全く初めての体験でしたので、実際にどんな形になるかイメージを持てないままで参加しました。運良く藍さんの座に入れていただいて、中国からのお客様鄭民欽先生、国際連句の近藤焦肝先生、漢詩研究の第一人者である青木五郎先生、そして学生さん2名という大変恵まれた連衆の中での実作でした。私は句を考えることよりも、どちらかというと先生方の会話に耳を傾けていることの方が多かったように思います。一つには、民欽先生が出された中国語の句の解釈を巡って、五郎先生が中国の習慣やいわれなど、説明を補ってくださったことは初めて聞く内容が多く印象に残りました。例えば、12句目に「鱸(すずき)蓴菜(じゅんさい)」が出たとき、この二つの食べ物は中国の人にとっては、官職を擲ってでも故郷に帰って食べたいものとされていること、従って原句には故郷という語が入っていなくても、当然それは故郷を思う意味を含んでいるので日本語訳では「故郷思えば」としてよいと教えられ
ました。だから十三句目の五郎先生の「身後の名棄て・・・」の句がとても生きてくるわけです。又、花の句を民欽先生にお願いしたとき、中国では花は桃をいうこと、桃の木を門に立てることでその下に自ずと道ができるという漢詩を引いて、成蹊ということば巧みに花の句にされたのには感心しました。因みに焦肝先生は成蹊大学の教授でいらっしゃる。民欽先生は七句目でも、藍さんの名を読み込んだ句を出されるなど、主催者に敬意を表されたのは中国人の民族性?なのかなという気がしました。日本にはない文化や風俗、歴史の違いなどを連句の座の中で垣間見た気がしました。こういうことが国際連句なのかなと少し実感することができました。でも、これは、時折ぺらぺらぺらと中国語で民欽先生と会話しながらそれを私達に補足して、より深い理解へとと努力してくださった五郎先生のご尽力がとても大きかったと感謝しています。五郎先生のおかげで日中連句の一端を見させていただくことができたと思っています。
「暁の雨」の巻 捌 矢崎藍 中国語訳 鄭民欽 御油の座
1 | 夏の月御油より出でて赤坂や | 芭蕉 | 夏月出御油 匆々去赤坂 | 三夏 |
2 | 暁雨退却桑拿天 | 鄭 民欽 | 暑熱をさます暁の雨 | 晩夏 |
3 | 念願のライフワークを書き終えて | 近藤蕉肝 | 畢生大事業 宿願終完成 | |
4 | 珈琲の渦じっと見つめる | 青木五郎 | 珈琲?渦定晴看 | |
5 | 底冷えの一輌電車走る町 | 稲垣渥子 | 一輌電車馳 街頭徹骨寒 | 三冬 |
6 | ダウンジャケットハモるアカペラ | 小竹由起 | 身穿羽絨服 合唱無伴奏 | 三冬 |
7 | 藍天晴深邃 詩心勝驕陽 | 民欽 | 天は藍深く詩心のあふるらん | |
8 | ばったり逢いし神のいたずら | 藍 | 莫非神捉弄 不過終相逢 | |
9 | 女狐におっぱい饅頭食わされて | 蕉肝 | 女狐送来乳頭包 不知内情吃下去 | |
10 | 野菊の墓に風の蕭々 | 山田奈々 | 野菊墓上風蕭々 | 仲秋 |
月 | 弦月を友にしたいと手を伸ばし | 由起 | 伸手向弦月 □我做朋友 | 三秋 |
12 | ?羹鱸魚露白思 | 民欽 | 鱸蓴羹故郷思えば | 晩秋 |
13 | 身後の名棄て一杯の酒を飲む | 五郎 | 抛棄身後名 且飲一杯酒 | |
14 | 携帯電話またも父から | 奈々 | 手機声々響 又聞厳父言 | |
15 | ヒロシマの悲願は核の廃絶と | 渥子 | 広島発誓願 廃除核武器 | |
16 | 泡立つ波頭鴎かすめる | 藍 | 涛頭翻白沫 海鴎掠波峰 | |
花 | 桃花笑東風 無言自成蹊 | 民欽 | 桃花笑みおのづから成る蹊あり | 晩春 |
18 | ぶらんこ揺れて駆けてくる子等 | 奈々 | 秋千悠蕩誘孩童 | 三春 |
*11[イ尓]
2 赤坂の座
●平賀小百合(比較文化4年)日中連句研究会は新たな発見と驚きの連続でした。赤坂の座で、許先生とご一緒に連句を巻くことになり、緊張しましたが、いざ始まると、そんな不安はどこへやら、福田眞久先生のリードで、知らないうちに連句を巻いていました。何度も唸りながひねり出した句もとっていただきました。私の恋句にホチキスの句がついたときは皆笑ってしまいました。二日目に、この座の中国訳を許先生がすばらしい抑揚で朗読され感動しました。翻訳では日本語のニュアンスと中国語の意味の違いに驚きました。でも言語が違っっても連句を通じ自分の心を伝えることができることもわかったような気がします。貴重な体験でした。
●加藤亜佐子(比較文化4年)最初は遠足気分だった研究会も連句開始とともに緊張モードに突入しました。座の皆さんは句を詠むのも早く圧倒されましたが、アドバイスを頂いて、私も楽しく詠むことができました。日中連句には言葉や文化の違いなど、様々な問題が生じますが、それこそが国際連句の醍醐味だと思います。
「松の梢」の巻 捌 福田眞久 中国語訳 許耀明 赤坂の座
1 | 夏の月御油より出でて赤坂や | 芭蕉 | 夏月余暉踏旅程 出御油赤坂奔行 | 三夏 |
2 | 松の梢に暁の蝉 | 許 耀明 | 伏蝉臥松梢 暁鏡映人影 | 晩夏 |
3 | 昼宴友どち集ふ座敷にて | 福田 真空 | 午宴句友喜相聚 座席挙杯満堂情 | |
4 | お国言葉が入り乱れする | 竹内 茂翁 | 国中聞異調 煕攘境外客 | |
5 | さらさらと窓打つ小雪歌うごと | 加藤 治子 | 坐聞沙沙吟唱声 原是小雪斜打窗 | 晩冬 |
6 | マフラー手袋野外演劇 | 深津 三郎 | 野外看演劇 圍巾一手套装 | 三冬 |
7 | 君の声風のまぼろし街に消え | 加藤 亜佐子 | 只聞君声不見影 随風幻滅街巷空 | |
8 | 夢の中でも強く抱きしめ | 平賀 小百合 | 相思夢里見 勁抱熱恋中 | |
9 | あの口に打ちたくなるよホッチキス | 茂翁 | 勧君閑話要少叙 免得用上釘出器 | |
10 | ヘリコプターは轟音を立て | 治子 | 直昇飛機閙 轟轟噪音鳴 | |
11 | 失業と不況にあえぐ日本国 | 真空 | 今朝東瀛現愁容 苦于失業与蕭条 | |
12 | 爽籟を背にまだ続く旅 | 耀明 | 行程風送爽 長旅自陶然 | 三秋 |
13 | 梁山に昇る月光ゲ嘯きぬ | 茂翁 | 乍望梁山明月出 □好月!佳月良宵 | 三秋 |
14 | 学ぶ香道やや寒の席 | 治子 | 専心学香道 入席略覚寒 | 晩秋 |
15 | 作法気に心配しつつ迷いつつ | 三郎 | 初学藝業技不精 恐怕輪番落己身 | |
16 | 舞いし胡蝶はまだ見ぬ場所へ | 亜佐子 | 胡蝶款款飛 不知向何方 | 三春 |
花 | 降りしきる花びら波に揺らぎ入る | 耀明 | 桜花落瓣飄飄舞 猶似江河起□瀾 | 晩春 |
18 | 再び会はん春虹の下 | 小百合 | 春空掛彩虹 再会待明天 | 三春 |
*13口[口阿] 17□[シ奇]
3 池鯉鮒の座
●吉田幸代(比較文化3年)初対面の方が三人。不安でしたが自己紹介をして和やかにスタート。私たちは許先生の秋の蝉の脇句を選びました。中国語の句は漢字なのでなんとなく意味がわかります。草笛奏さんが次から次へいい句を出され、凄い!焦りそうになったので、途中で意識して、肩の力をぬいて句を作りました。「息白し」の私の句は最初「街の中」でしたが捌きの福井さんのアドバイスで「北の街」に。王莉々さんの綺麗な雪の光の中国語句につながります。「若い子に恋は任せる」といわれてニックくんがオープンカフェの恋句。つぎの美代子さんの恋うて焦がれてはさすが大人の恋句です。4時間がとても早くたってしまいました。
●草笛奏(連句わーるど)冗談のつもりで持参したお饅頭が、予想外の物議をかもした模様(笑)。中国の方が見えるということで、「三国志」の句を入れようかと事前に考えていたはずなのに、当日はすっかり忘れてしまっていました。*注 おっぱい饅頭は隣の御油の座の9句目に登場して恋句になってしまいました。
「暁の蝉」の巻 捌 福井直子 中国語訳 鄭民欽 池鯉鮒の座
1 | 夏の月御油より出でて赤坂や | 芭蕉 | 夏月出御油 匆々去赤坂 | 三夏 |
2 | 松の梢に暁の蝉 | 許 耀明 | 伏蝉臥松梢 暁鏡映人影 | 晩夏 |
3 | 劇作家書斎の椅子にまどろんで | 黒木美代子 | 書房椅子上 打□劇作家 | |
4 | ひっくり返す砂の時計を | 草 笛 奏 | 一下翻過沙時計 | |
5 | 息白し走って帰る北の街 | 小川さん | 北街?回去 呼気亦発白 | 三冬 |
6 | 窓戸映雪光 | 王 莉々 | 雪の光を映し出す窓 | 晩冬 |
7 | 君を待つオープンカフェで水五杯 | ニック | 待君露天珈琲座 無奈喝水己五杯 | |
8 | 恋うて焦がれて刻とまるほど | 美代子 | 心焦為恋愛 時間也停止 | |
9 | プライドを着直し沈む雑踏に | 奏 | 重樹自尊心 消失□□人群里 | |
10 | モニター見つめ警備員立つ | 美代子 | 保安立街頭 注視監視器 | |
11 | ふるさとの母から届く青蜜柑 | 福井直子 | 故郷青桔子 慈母一片心 | 三秋 |
12 | 百舌の高音のふっととぎれる | 小川さん | 伯労高声鳴 嗄然忽停止 | 三秋 |
月 | 一輪皓月浮明眸 | 莉々 | 明眸に浮かび上がった望の月 | 仲秋 |
14 | 時代の汽車に振り落とされて | 奏 | 時代列車?下来 | |
15 | ニッポンの頼みの綱は子どもだけ | 美代子 | 日本的希望 寄托在孩子 | |
16 | 老翁品香茗 蘊繞玉堂前 | 莉々 | 翁茶をきく玉堂の前 | |
花 | 花筏流れのままにゆるやかに | 直子 | 花筏逐流軽悠々 | 晩春 |
18 | ぶらんこ揺らす鄙の休日 | ニック | 郷間休閑日 歓楽蕩秋千 | 三春 |
*3□ [目屯] 9□□[口少][口曹]
4 岡崎の座
●谷淑恵(比較文化3年)日中連句会では年齢も国籍も職業も、男女も本当にいろいろな人が集まったと思います。私の句のみたらし団子が中国語訳で「竹櫛小丸子」になっておもしろかったです。「本気にしたい恋の火遊び」に「自然消滅狙う彼」という句はよく付いていておもしろい。連句人との座を経験して、句作では想ったことをそのまま句にするのではなく少しひねった方がいいことに気づきました。
●小崎綾子(比較文化3年)いつも楽しい句を作る谷さんが「できたよー」とみたらし団子の句を作って一発でオーケーが出て、バイトの句を付けたら「おもしろい」とすぐ採用され、つぎは雪合戦の狙いうちと表六句はすんなり運びました。「自然消滅」の恋句は「綺麗な句よりダークな句を考えて」と捌きの方にいわれてできました。つぎの「着信履歴残るケータイ」は明子さん。とても上手です。連句の先輩にたくさん教えていただけて、とても楽しい日中連句でした。
●熊沢京子(人間関係1年)この座に出て「そういえばまだ国語表現Tで6句の連句しかやってないじゃん」と気づいた私です。隣の呉秀蓮さんは中国語の詩とモンゴル語と日本語のニュアンス理解に必死になっていましたし、一方に洪水のように句を出す先輩たちがいて私は翻弄されてました。でもこういう座があったらまた出たいです。
●由川慶子(ころも連句会)学生たちは生活の中の実感のある句をどんどん付けてくれました。3月まで、馬で通学していたという呉秀蓮さんの句「路辺百花開 春意益然来」(開と來は脚韻を踏んでいます。桜の花ではありませんが、彼女の国の「華やかなるもの」、まさに正花といっていいでしょう。今回は呉さんには月の座と花の座の句お願いしましたがもっと前句を理解できるようになったら、内モンゴルの生活感溢れる付け句をして貰えるのではと期待しています。なお、Mさんが、呉秀蓮さんにつきっきりで日本語句の説明をしてくださった。これぞ日中交流連句を実感いたしました。
「おぼろおぼろに」の巻 捌 由川慶子 中国語訳 鄭民欽 岡崎の座
1 | 夏の月御油より出でて赤坂や | 松尾芭蕉 | 夏月出御油 匆々去赤坂 | 三夏 |
2 | 暁雨褪却桑拿天 | 鄭 民欽 | 暑熱をさます暁の雨 | 晩夏 |
3 | 飲みかけのウーロン茶置く縁側に | 深津明子 | 剛喝両口烏龍茶 放在廊縁上 | |
4 | うまいみたらし追加注文 | 谷 淑恵 | 竹串小丸子 好吃又去買 | |
5 | 今日こそはどこかに決めるバイト先 | 小崎綾子 | 今日定下来 何処去打工 | |
6 | 雪合戦でねらい撃ちされ | 淑恵 | 雪戦成為?矢的 | 晩冬 |
7 | 牝狐が足跡つける戯れあいて | 熊沢京子 | 女狐相戯謔 到処□脚印 | 三冬 |
8 | 本気にしたい恋の火遊び | 間瀬芙美 | 本是逢場戯 不覚真心恋 | |
9 | 終りだね自然消滅ねらう彼 | 綾子 | 対方就此想結束 自然而然両分手 | |
10 | 着信履歴残るケータイ | 明子 | 短信息歴史 留在手機上 | |
11 | 弯弯的月亮 滔滔的河水 | 呉 秀蓮 | 弦月の影を流して川滔々 | 三秋 |
12 | 煙たなびくベナレスの秋 | 明子 | 貝納列斯城 白煙繞秋空 | 三秋 |
13 | ひっそりと薄泣いてる町はずれ | 綾子 | 城郊芒草啜泣声 | 三秋 |
14 | 母美しく年を重ねて | 芙美 | 母親美随年事増 | |
15 | 女系家族三代揃い立ち話 | 京子 | 母方三代人 站立話親切 | |
16 | お地蔵様に赤いエプロン | 淑恵 | 地蔵菩薩身 系着紅圍裙 | |
17 | 路辺百花開 春意?然来 | 秀蓮 | 咲き満てる百花ゆれおり路の辺に | 晩春 |
18 | 朧々に酌み交す酒 | 芙美 | 朦朧飲酒互斟酌 | 三春 |
*7□[足采]
5 藤川の座
●石原未那(比較文化4年)大人3人、学生3人でおもしろい連句ができました。一人一人の人柄と、個性が生きてますよね。具体的には前半部分らしさ(?!)がうまく表現できたのではないでしょうか。私はこの前日に「アイスエイジ」という映画を観にいったのですがこれに出てきたキャラクターが印象的でどうしても『マンモス』という単語が使いたくて連呼していたら捌きの方が素敵な句をつくってくださいました。そこから映画館のどきっとする句になるのです。住基ネットのイライラを山芋をすることにぶつけ、その山芋をつまみに酒を飲むというゆるーい雰囲気に流れていっているところがいいなぁ、水口さんはお酒お好きなんだなぁきっとーー…なんて考えてしまいました。
今回の連句では自分たちの句が中国語に訳されましたーー国語をまた勉強しなければなぁ…と、焦る私なのでした。
●近藤優希(比較文化4年)始める時に捌きの方が「若い感性があった
方がいいから、句をどんどんだしてね」と言われて気が楽になりました。私の句"彼の囁き心惑わす"は芳梅さんのアドバイスで上下を逆にして落ち着かせたのです。麻衣子ちゃんが「映画館と初デートが使いたい」と悩んでいるとき「自分が納得しない句は嫌だよね。納得するまで考えていいよ」といわれ、のびのび連句ができたと感謝しています。翌日の研究会では日本語を中国語に訳す難しさを知りました。中国語に関わらず、日本語の微妙な言い回しや感覚を他の言語に訳すのはとても難しい事に改めて気付きました。日中連句はまだ始まったばかりですが、その場に参加・勉強させていただけた事がとても嬉しかったです。この場を借りて、中国からいらっしゃった民鉄先生、許耀明先生を始め、座の皆様や参加なさった皆様に感謝・御礼申し上げます。
●朴織女(比較文化1年)松花江は私の故郷の近くの有名な河です。子供のころ両親に連れられて遊びに行きました。川の中に島があってボートに乗っていきます。私のの句はその帰りの水面に月が映っているところです。懐かしいです。
●長坂節子(ころも連句会)学生さんたちがよく季語集を読んでいて感心しました。また、言葉に対するこだわりを持ち、自分達の考えを出そうと一生懸命やってくれました。
今流行っている映画、みたい映画の話になり「アイスエイジ」という映画の中にマンモスと怠け者と悪役のタイガー(かな?)が出てくる話になり7恋の呼び出しに元句は「捨てられた猫を抱き上げ帰る道」を出したのですが皆の反対により却下 「マンモスに抱かれて眠る夢をみた」になりました。8 「心惑わす恋の囁き」学生の優希さんの句、 はじめは「心惑わす彼の囁き」だったのですが、つぎの句の 飯田さんが、「彼、使いたい」「じゃ、こっちを恋ニスルワ」「ゴメンネ」「いいよ」というわけで「恋の囁き」に。9かれの腕だったりそのうち、男の子の気持ちになったらということで「少し気映画館の句は 男の子の気持ちになったらということで「少し気になる、ちょっと気になる君の胸といってわいわい言っているうち、男性がポツリと一言「とても気になる君の胸」、それで決まり。(笑)10 雑で時事を出してと言ったところ就
職試験で住民票がいったとか色んな話から住基ネットの話になり麻衣子さんが時事句を出してくれました。11 芳梅さん上手く受けてくださり、12さすが黒一点の水口さん、お酒の句うまいですね。温泉につかりながら飲むお酒は格別だそうです13中国の朴さんに「月を見ると何を思いだしますか」とお聞きしたところ「故郷とお母さん」、皆しんみりしてしまいました。花座 未那さんの花の句、若者らしい素晴らしい句だと思います。連衆の皆さんのご協力で楽しい時を過ごせた事に感謝しています。
「夾竹桃」の巻 捌 長坂節子 中国語訳 許耀明 藤川の座
1 | 夏の月御油より出でて赤坂や | 松尾 芭蕉 | 夏月出御油 匆々去赤坂 | 夏 |
2 | 蓊郁照眼夾竹桃 | 鄭 民欽 | 茂みに映る夾竹桃のいろ | 夏 |
3 | 公害に耐えて烏の飛ぶならん | 水口 康彦 | 望処起黒霧 恐有為鴉翔 | |
4 | 塾通いする子らの弁当 | 小野 芳梅 | 学塾孩童帯弁当(盒飯) | |
5 | 風花にあかくなってる両の頬 | 石原 未那 | 風花拂面去 両頬泛潤紅 | 冬 |
6 | ホットコーヒー湯気のゆらゆら | 近藤 優希 | 熱珈琲沸気□々 | 冬 |
7 | マンモスに抱かれて眠る夢をみた | 長坂 節子 | □抱長手象 眠夢見君影 | |
8 | 心惑わす恋の囁き | 優希 | 牽魂黙恋情声語 | |
9 | 映画館とても気になる君の胸 | 飯田麻衣子 | 影院同□賞 移目在汝胸 | |
10 | 住基ネットにつのるイライラ | 麻衣子 | 住基注冊心不安 | |
11 | ひたすらに擂鉢でする山の芋 | 芳梅 | 勁力轉擂杵 一鉢山芋粥 | 秋 |
12 | 濁酒手につかる岩風呂 | 康彦 | 飲着濁酒泡岩浴 | 秋 |
13 | 水面浮明月 蕩漾松花江 | 朴 織女 | 松花江の水面に揺れる望の月 | 秋 |
14 | 写真撮り撮り旅人の行く | 芳梅 | 旅人去処頻拍照 | |
15 | 大リーグイチロー狙う打率王 | 優希 | 要当打球王 学大賽一郎 | |
16 | 子犬を連れて散歩する日々 | 麻衣子 | 毎天散歩帯子犬 | |
17 | 前を見て真っ直ぐくぐる花の門 | 未那 | 目視前方行 徑直穿花門 | 春 |
18 | 小鮎上矢作大橋 | 朴 織女 | 矢作大橋上る若鮎 | 春 |
* 6□[鳥衣] 7□[手婁] 9□[万欠]
■日中連句研究会「日中連句会議」8月7日
翌日は桜花学園大学管理棟大会議室で、日中連句会議「二カ国語連句としての日中連句」が開かれました。コーディネーター・日中連句研究会代表近藤正先生・司会矢崎藍。
午前中に前日作品5巻の披講(日本語・中国語)と翻訳についての討議。今回鄭民欽先生の座は5・5−7の文体を、許耀明先生の座は 7・7−5・5の文体を試みました。3・4・3−4・3の可能性も討議。午後は 1 鄭民欽先生の講演「俳句・連句の中国語翻訳について」2 日中連句の展望・可能性について
●小野芳梅(ころも連句会)古来、日本人は、「訓読」というテクニックを駆使することによって、 中国の詩に親しんできた。今、日本の連句という形式を漢字「10、7、10、7・・・10、7」 あるいは、「7・7、5・5、・・・7・7、5・5」の形によって、中国語で詠もうという 試みを目の当たりにして、取り分け許先生の朗詠を耳にして、不思議な?気持ちがしている。あの抑揚のある響きが、とても心地よかった。 それにしても、漢字が表意文字であることの有り難さを再認識している。 また、現在私達が使っている漢字は、今の中国の旧字であり、漢詩・唐詩は、 私達日本人が自国の古文に触れるような感覚で詠まれているのだろうか?
もっともっと新しい詩は?女性の詩は?といったこれまで抱いていた色々なモヤモヤに生の情報を得られたことが嬉しかった。中でも鄭先生が、「日本で田園詩人と呼ばれている陶潜」を引き合いに出され、中国の詩の裏には政治があると言われたことは印象深かった。 もともと漢詩を日本語流に音読するのが好きであり、カネガネ本場流で聞いてみたいと思っていた。個人的には、其れがかなわなかったことだけが心残りである。 私の中の中国が膨らんだことが何よりも嬉しい
●王莉莉(比較文化1年)連句研究会が終わったら、日本の文化をより深くわかるようになってきました。みんなと一緒に詩句を研究して、すごく楽しかったです。実はいろいろな感想がありますが、なかなかうまくいえません。だから出来るだけちょっと言おうと思います。中国で小学校の時から高校まで、教科書に詩句などがのっています。だから中国人の学生たちは多少おぼえています。詩は練れていて含みがあります。もっとも少ない言葉こそ、自分の考えを詳しく表現します。さらに、信、達、雅などの要求があります。美しくて深い意味も含んでいます。昔の詩人たちは本当に賢くて偉いと思います。誰を読んでも、たいへんすばらしい雰囲気を感じられます。日本の連句は中国の詩との関係があるし、同じところもありますが、多くの違いもあります。連句は詩句よりもさらに単純だと思います。一つか二つの物、物事について、「五七五」の句を作れます。たぶん、これは人間の考えの発展方向と合っています。現在の社会はだんだん複雑になってきました。生きている人間は元々簡単な物事をあこがれています。それで、連句にとって、広い発展空間が
あると考えます。
■ 日中連句会議は近藤正会長により、翌8月8日、東京世田谷国士舘大学でのシンポジューム。9日深川芭蕉記念館での日中連句実作会にひきつがれ、03年には中国の 瀋陽で第三回日中連句研究会での再会を約して終了しました。
●矢崎藍 昨年の第一回北京大学につづき日中の二カ国連句史に価値あるステップとなりました。(来年は中国で開催)鄭民欽・許耀明・近藤正・福田眞久・青木五郎諸先生には、遠路おいでいただき国際連句の空間を体験、学ばせていただき、ありがとうございました。ころも連句会のみなさんご苦労様。元気な御油―赤坂プラン大好評でした。会場・宿の手配下見などご苦労さま。そして何より国際連句(二カ国語連句)にかさね学生の指導という大変困難な座で、実力を発揮してくださった捌き、それを助けた連衆の皆さんに拍手です。
鄭民欽先生講演資料
1 忍見落紅乱、雲辺茜影欺、藍天本无水、軽風弄漣?。
桜花散りぬる風の名残には水なき空に波ぞたちける 紀貫之
2 薇菜似"の"字、寂光浄土界。
ぜんまいののの字ばかりの寂光土 川端茅舎
3 陸奥地、伊達古都、田畴春温潤。
みちのくの伊達の郡の春田かな 富安風生
4 夏月出御油、 匆々去赤坂。
夏の月御油より出でて赤坂や 松尾芭蕉
5 信、達、雅
6 西風拂胡鬚、誰子嘆暮秋。
憶老杜
鬚風ヲ吹て暮秋嘆ズルハ誰ガ子ゾ 松尾芭蕉(虚栗)
cf.( 杜甫 藜ヲ杖イテ世ヲ嘆ズルハ誰ガ子ゾ 「白帝城最高楼」)
7 待採?一片嫩葉、軽揩恩師涙。
若葉して御目の涙ぬぐはばや 松尾芭蕉 (笈の小文)
8 痩青蛙、別輸掉、這里有我一茶。
痩蛙まけるな一茶是に有 小林一茶(七番日記)
9 且挿溲疎作飾花、権當盛装衰過関□。
卯の花をかざしに関の晴着かな 河合曽良(おくのほそ道)
10 越過白川関、踏入奥州路、僻地挿秋歌、風流第一歩。
風流の初や奥の田植うた 芭蕉(おくのほそ道)
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